概要 [編集]
JSFの名の通り、ほぼ同一の機体構造を用いながら、基本型の通常離着陸(
CTOL)機である
F-35A、短距離離陸・垂直着陸(
STOVL)機の
F-35B、
艦載機(CV)型の
F-35Cという3つの派生型を製造する野心的なプロジェクトである。
1960年代にも似たような運用構想で
F-111が開発されているが
[3]、F-35はそれと比較しても機体の小型化と
ステルス技術の進歩を窺わせるものがあり、また採用予定国も複数に上る。
アメリカ空軍・
海軍・
海兵隊、
イギリス空軍・
海軍などが採用を決定しており、あわせて数千機が製造される見込みであるが、開発の遅延や当初予定より大幅なコスト高などの課題も抱える。2011年5月時点で開発総額は3850億ドル(31兆円)に達している
[4]。
特徴 [編集]
外形 [編集]
F-35は
F-22に似た
[5]、ステルス性に優れた
菱形翼のすぐ後方に、主翼と似た平面形の全遊動式水平尾翼を持ち、2枚の垂直尾翼はステルス性向上のために外側に傾けられている。
主翼付け根前縁から機首先端まで続くチャインは機体の上面と下面を明確に分けており、エア
インテーク(インレット)はチャインの下、コックピット後方の左右にある。従来の超音速ジェット機にあったような
境界層分離板
[6]が無く、胴体側面の出っ張りによって境界層を押しやる仕組みになっており、ダイバーターレス
[7]超音速インレットなどと呼ばれている。
コックピットには前方ヒンジ方式の一体型キャノピーを採用した
[8]。これによりアクチュエーターの小型化と重量の軽減が可能となった
[8]。合わせて、整備の際のアクセスも容易となった
[8]。電気システムのユニットや整備アクセス関連のユニットを、それぞれ胴体側面に配置した事で少ないアクセスパネルで対応できる
[8]。
一つの基本設計を基に、通常離着陸(
CTOL)型、短距離離陸・垂直着陸(
STOVL)型、
艦載機(CV)型と3タイプの開発・製造を目指すものの、設計の共通性は高い
[9]。各タイプの設計に占める独自設計部分はA型が19.8%、B型が32.6%、C型が43.1%と、最も共通性の低いC型でも50%以上の完全な共通設計、もしくは同類設計が用いられている
[9]。
ステルス性については詳細が公表されていないものの、F-22と同様にアンテナやセンサー類の張り出しを極力設けない設計を採用し、F-35では機体フレーム内にそれらを埋め込む事で、その効果を高めている
[10]。単発のF-35の機体サイズ自体もF-22と比べて小型化した事で、目視での発見を困難とする(低視認性)
[10]。
エンジン [編集]

リフトファン使用時には機体上下のドアが開いて空気が下方へ噴射される
機体後部のエンジン排気もノズルによって下方へ曲げられる
エンジンの圧縮機で作られた高圧空気の一部も翼の左右に導かれてロールポストで調整され下方へ噴射される

P&W F135ジェットエンジン(V/STOL用)の
3ベアリング回転ノズルの偏向動作モデル
上図:水平飛行時 下図:V/STOL飛行時
回転面がずれた3つの筒部を互い違いに回転させることで、真後ろ方向から垂直下方までジェット排気の推力を偏向させる
F-35はその開発に際し各軍の要求の多くを実現しようとしたため、単発戦闘機としては重量級の機体となった。それに見合う様、エンジンも強力な
F135を搭載しており、その推力はドライ出力でも125
kN、
アフターバーナー使用時には191kNにも達する。その為、F-35は単発機でありながら
ラファール(
M88、ドライ出力:50.04kN×2=100.08kN、A/B出力:75.62kN×2=151.24kN)、
ユーロファイター(
EJ200、ドライ出力:60kN×2=120kN、A/B出力:89kN×2=178kN)、
F/A-18E/F(
F414、ドライ出力:62.3kN×2=124.6kN、A/B出力:97.9kN×2=195.8kN)等といった双発機の合計推力に匹敵する大推力を有する事となった
[11][12]。
F-35B型は垂直離着陸を行う方法として、リフトファン方式を採用しているのが特徴である。
X-32と同出力のエンジンを使用したと仮定した場合、構造上X-35は、X-32より効率的にエンジン推力を伝達出来るため、離昇速度や燃費に優れる。離昇推力は基本的には、単位時間当りの空気流量×噴出速度から決定されるが、X-35はリフトファンの効果によりX-32と比べて離昇時の空気流量が大きくなるためである。当然、離昇推力が同一の場合は噴出速度が低くて済む。
だが、垂直離着陸時や短距離離着陸時にしか使用しないリフトファンとシャフトは、水平飛行中は不要となり重量と空間が無駄となる。これにより燃料搭載スペースが削られ、STOVL機であるF-35BはF-35A/Cより航続距離が短くなっている。また、構造の複雑化により整備性も悪くなる。また、この高推力エンジンと固定インテイクの取り合わせにより、騒音が大きくなった
[14][15]。
アビオニクス [編集]
ヘッドアップディスプレイ(HUD)に代わって
ヘッドマウントディスプレイ(HMD)が採用された。HUDはコックピット正面に固定されているため、パイロットは視線を前方から外すことが難しかったが、HMDでは従来のオフボアサイトミサイル照準用などで使用していた統合ヘルメット装着式目標指定システム(
JHMCS)を更に発展させて、基本的にはHUDの表示機能の全てを含めたものである
[16]。これは上下を含む自機の全周360度をカバーした映像がバイザーに投影されるというもの。ディスプレイの重量はバイザーに情報を投影するイルミネーターが2基あるにもかかわらず、全体が
炭素繊維でできているため、従来の汎用ヘルメットよりも軽量である。開発メーカーはイスラエルのビジョン・システム・インテグレーション社(VSI)で、VSIはJHMCSの開発も行なっている
[17]。
操縦桿は座席右側にジョイステック方式のサイドスティック
[18]になっており、左側にはスロットル・レバーがある。F-35Bではスロットル・レバーの横にSTOVL操作用レバーが加わる
[12]。
また、主表示装置については、従来の機体と異なりひとつの大型液晶ディスプレイとなっている(カラー表示、
タッチパネル式)。このディスプレイの表示をいくつかのウィンドゥで区切って分割し、そこに各種の情報を表示する為、従来の機体の表示装置よりも大幅に見やすくなっている。画面分割数やウィンドゥのサイズ等、表示する情報をパイロットが変更出来る。これにより、必要な情報のみを表示し不必要な情報は表示しない、という従来の機体にはない使い方も可能で、パイロットに与える負担は大幅に減っていると
ロッキード・マーチンのアル・ノーマン主任
テストパイロットは語っている。
[19]